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砂時計の邂逅(FEH ベレト&セネリオ+ソティス)

  • kazenoryu-beibei
  • 2023年5月8日
  • 読了時間: 5分

「奇妙な童じゃのぅ……」  その呟きに、ベレトは首をかしげた。 「ソティス?」 「うむ、さきほどおぬしが話しかけておった黒髪の童じゃが」 「セネリオのことか」  ベレトがこの世界に召喚されて、数日。さすがに、まったく動揺しなかったとはいえない。元の世界にいる生徒達のことも気に掛かる。

 かといって、この世界の事情を無視することも出来なかった。それに、この世界に召喚されている英雄は数え切れない。これは彼らから新たな知見を得る、よい機会なのではないか。そんなふうに気持ちを入れ替えてみれば、あながち悲観するような事態でもないのだった。

「名前などどうでもよい」  拗ねたようにソティスは言う。  ちなみに、この世界ではソティスは実体化しており、あちこちを気ままに散策している。これはソティスもまた、英雄として招かれた結果らしい。  それはさておき、として。

「おぬしもてっきり気付いておると思っておったが……何じゃ、買い被りであったか」 「ソティス、わかるように話してくれないか」 「そう急かすでない。今から話してやるところじゃ。そうじゃの。何と言うべきか――あの童には気配がないのじゃ」 「それは妙だな」  ソティスが話題にしている少年は、魔道士である。  気配を消すことに特化した職業の者であればともかく、魔道士でありながら気配を消すことに成功しているとすれば、それは相当な手練れではないか。


 グレイル傭兵団のセネリオ。  異世界から召喚された魔道士であり、元の世界では傭兵団の参謀を務めているという。  今回は共通の祭りに招待されているために、揃ってカダイン――これも異世界の、学術都市である――の装束に身を包んでいるが。  無論、学術都市での祭りなので、魔道に関わる内容である。  しかし自分は、取り立てて魔道に明るいわけではない。それでいて教え子には、魔道を志す者もいるわけで。

 これではいけない、と思った。  せっかくの機会である。魔道について学び、持ち帰った知識で生徒達を導いてやりたい。そう考えたベレトは、かの少年魔道士に質問を投げかけたものである。  セネリオは迷惑そうであった。不機嫌を隠さない、仏頂面を向けてきた。  それでも彼は薄情ではなかった。終始面倒そうにはしていたものの、ベレトの質問には律儀な回答を寄越した。読書家らしく語彙が豊富で、喩えも巧い。  彼との会話は生産的で、有意義な時間を過ごすことが出来た。

 ベレトのセネリオに対する評価は友好的であったが、ソティスは別の印象を抱いたらしい。 「後天的な技術ではないぞ」  そう言ったソティスは、難しい顔をしていた。 「あの童にはおそらく、うまれつき気配や存在を主張する色が備わっておらんのじゃ」 「自分と同じようなものだろうか」 「少し違う気がするのぅ。少なくとも心臓は動いておったからの」 「そうか……」  果たしてそのとき、足音が近付いてきた。  軽やかで、それでいてどこか苛立っているような――隙を見せない早足。

「少しいいですか」 「セネリオ。どうかしたのか」  ソティスはぎょっとした顔つきになったが、セネリオは頓着した様子を見せない。彼はあくまでもベレトに用事があり、それ以外の者は視野に認めていない様子であった。 「……これ」 「本?」 「あなたが先程、質問してきた内容に沿った回答が用意されています。参考になるでしょう」 「そうか。……感謝する。わざわざ持ってきてくれて」 「ふん」  セネリオは忌々しげに鼻を鳴らす。

 さっさと踵を返しながら、彼は言い足した。 「納得がいかなかったのですよ」 「何がだ?」 「先程の質問に対する答えは、僕の経験に基づくものでした。しかし、魔道とはもっとも才覚が顕著に作用するものです。僕個人の主観的な感想のみで、質問への回答とするのは不十分かと」 「そんなことはない」  セネリオの説明は的確であったと、ベレトは思うのだが。  本人は尚も、客観視にこだわっているのだから仕方がなかった。 「実際、記述の中には僕の感想と食い違う項目が散見されました。これはつまり、個人差による影響の範疇が決してちいさくない、という証左です。僕も目を通すことが出来て良かった」 「君は勉強熱心だな」 「熱心?」  セネリオは訝しげな顔になる。機嫌の悪いソティスがよくやる表情であった。  ソティスの方を見やれば、彼女は案の定、セネリオと同種の顔つきになっている。まるきり無視されているのだから、面白いはずがなかった。

 何か言葉をかけてやろうとした矢先に、――ソティスが言った。思い出したように。 「おぬし、紋章を宿しておるのか?」 「!」  セネリオが目を見開く。  その目に、明確に走り抜けた感情があった。  怯え、であった。

「どうして、そう思うのですか?」  彼が動揺を見せたのは、ほんの一瞬であった。次の瞬間には、常態に立ち戻っていた。  ソティスはそれがつまらない、と言わんばかりに唇を尖らせる。 「おぬしに関わったことで、こやつに何かあっては困るのでな」 「何もありませんよ……少なくとも、この世界ではね」  この世界では。  引っかかる言い方である。会話を最低限で済ませようとするこの少年にしては、らしくないとベレトは思ったのだけれども。

「僕に関わらないことです」 「セネリオ」 「そうすれば、何事もなくあなた達は元の世界へ戻れることでしょう。……では、僕はこれで」 「そうはいかない」  言って、ベレトは少年のマントを掴んでいた。

 歩行を妨害されたセネリオが、わずかに咽せる。振り返った彼は、明確に怒っていた。 「何するんですか!」 「君は自分の教え子達と同年代に見える」 「見えるだけですよ。……たぶん、僕はあなたともさして年は違わな」 「何より、君の魔道に対する向上心と知識は尊敬に値する。また是非とも共に学ぶ機会を持ちたいと思うのだが」 「それはあなただけですよ!」 「そうじゃそうじゃ! そんな無愛想な童のことなど、放っておくのじゃ」  セネリオとソティスからは、そんな調子で騒がれたものの。

 ベレトは結局、少年魔道士のマントを手放さなかった。それはセネリオを根負けさせるに充分な時間を経過させ、飽きたソティスがどこかへ去って行くのに相応しいひとときであった。


 
 
 

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